並木族に朝は来ない
週末の代官山、夜中から明け方、それも通り越した昼近くまで、終わらないパーティがある。ドラッグクィーン、バーレスクダンサー、占い師、手品師らが客をもてなし、DJが極上かつ優雅なヴィンテージレコードから超エレクトロなオリジナルトラックをターンテーブルにのせる、ここは並木橋の小さなビルの一室「アマランス ラウンジ」。この場所での週末パーティは低年齢化した都内のクラブに満足できない人達のために2年前に始まった。赤い壁紙、黒いソファー、黄金のシャンデリアに純白の暖炉、このゴージャスきわまりない店内、そこに集まる様々な人々。彼等は深夜12時までは、ニノロータやピアソラなどが、ひっそり鳴る店内で、充分過ぎる程の大人の時間 をゆっくりと過す。そしてDJが、ころ合いを見て、アッパーなダンスミュージックにスイッチしたその瞬間、ホストもゲストもお客も入り乱れての真夜中のパーティはス タートする。今日もまた誰かの為にシャンパンが開けられ、乾杯と共に、騒ぎもアルコールも次第に上がっていく。
ここに集まる人達を並木族と称するらしい。「〜族」とは古めかしい呼び方だが、この洒落た不良の大人達を呼ぶには相応しいかもしれない。建築家、デザイナー、カ メラマン、スタイリスト、ヘヤーメイク、ミュージシャン、ダンサー、AV監督、、などなど。皆ばりばりの仕事をこなしている連中ばかりだ。若いアーティストの卵達が 勢いで騒いでいるのとは違った、優雅さがここにはある。野暮な仕事の話もせず、浴びる程酒を飲み、気分が乗れば踊る、楽しみ方も心得ているのである。こう、書いて いると、身内ばかりの排他的雰囲気と思われるかもしれないが、決してそうでない。例えば噂を聞きつけ独りで訪れた若い女の子にドラッククイーンは優しく隣に座った 男の子を紹介したり、と通常のバーやクラブとは違った開放感もあるのだ。
そして、彼等の夜の楽しみ方は途方もなく幅が広い。ジャズやラテンで軽くスイングするかと思えばエロクトロなハウスでデープに踊り、R&Rでツイストするかと思え ば、「ミニーザムーチョ」で「ハイディハイディホー」の大合唱、、とDJの私から言わせればまったく分かってるお客さんなのだ。騒ぎがひととうり終わり窓に朝日が差 し込む頃、再びこの店は賑わいを見せる。自分の店をしめたバーやクラブのオーナー、仕事が終わったDJ、色んな遊び場を一周してきた遊び人達が現われる。そして、この 店のレジデントDJ岩村学がモーツワルトを大音響でかけると、ドラッグクイーンが蝶のように舞い、パーティは終演を迎える。世界中のクラブやパーティを取材してき たY女史は言う「こんなパーティ見たことない!」そして、時としてここから第2部とでも呼べる明け方のパーティが始まることもある、、、並木族の夜は終わらないか のように。
text comoesta yaegashi from STUDIO VOICE クラブカルチャー伝説より